SNS向きでない長文転記場所

5年くらい前に他で公開した文章をほとぼりが冷めたころに転載したものです

いまさら「はじめての海外文学」フェアのはなし

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私も平均よりは本を読むほうなのですが、いろんな種類の本を少しずつ読みちらすせいで、いっこうに特定のジャンルには詳しくなれそうな雰囲気がありません。
ノンフィクションは本の題名を見ればだいたい中身が想像つくのですが、とくに小説はある意味「ジャケ買い」せざるを得ないところもあり、選ぶのに本当に苦労します。
たまに、特定の全集をしらみつぶしに読んだりするのですが、これもおもしろそうな本を選び出す自信がないからです。

ちょっと前の話ですが、丸善ジュンク堂(通称「ジュルゼン」)にて開催された「はじめての海外文学」フェアが話題になりました。
http://www.junkudo.co.jp/mj/store/event_detail.php?fair_id=8328

特徴は
・50人の選書人が1冊ずつ選んだオススメ本
・値段は最高2500円
ということ。

海外の小説は、内容の推測が困難であることに加えて、著者の知名度が日本で低かったり、ときに酷い翻訳のものに当たってしまったり、またはある程度当該地域の歴史や習俗に詳しくないとピンとこないものもあったりして、ハードルが高いのは確かです。
こういうフェアだけで急に海外文学が人気になるとは思えませんが、フェアの後もネット上に記事が残るので、あとから目に見えない効果があるかもしれません。

一方で、ある有名なお方からは、このようなコメントがありました。
「2500円以上する翻訳小説を見てすぐ「高い」と言う人は貧乏じゃなく貧相なの、けちんぼなの。」
これは!祭りの予感!
喧嘩と火事はネットの華!
みwなwぎwっwてwきwたwぜwww!

このお方は安い書籍をオススメするかわりに、
「普段から海外文学をめちゃくちゃ楽しそうに読んでいる様を見せつけます。
めちゃくちゃ楽しいと言い続けます。
わたしはそれを書評という仕事でもやっているつもりです。」
とのことです。

しかし、そもそも海外文学を知らない人が、このお方の書評やイベントにたどり着く可能性なんて、「微粒子レベルで存在」程度のものですよ。
おそらくは、
 1. これから海外文学に触れようと思っている人向けの活動
 2. すでに海外文学に親しんでいる人向けの活動
を完全に混同しているのでしょう。
このお方のやっていることは、主に2のほうです。
海外文学にある程度入り込んだ人を離さない効果はあるかもしれませんが、全くの未経験者を取り込む効果ははっきり言ってゼロだと思います。

あらゆる文化に共通の現象として、裾野が広がれば広がるほど、文化の「純粋性」は失われることとなります。
いつぞやも書いたかもしれませんが、柔道における「カラー柔道着」が好例でしょう。
柔道を世界的なスポーツに!と主張する人が、同時に白い道着は柔道の精神性を示したものであり、不可侵である!と主張するのは滑稽なことです。
そんなに純粋性を保ちたかったら、ごくごく内輪のサークル内の活動にとどめるべきでしょう。

今回の方についても同様です。
「2500円を本に支払う覚悟のない人間は貧乏であり貧相でありケチンボである」
という主張からは排他性以外を感じることはできませんが、本人は排他的であることすら自覚できていないのでしょう。
これは、自らの所属する集団を外からの目で見ることの困難さをよく示している例だと思います。
内向きの意見ばかりを聞きすぎると、それがすべてだと勘違いしまうのですね…。

(2015年5月31日)