SNS向きでない長文転記場所

5年くらい前に他で公開した文章をほとぼりが冷めたころに転載したものです

そんなロマンは捨ててしまえ!

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昨日は私の誕生日だったせいか、日本やアメリカの色んなところで追悼式典が行われたようです。
しかし、個人的には昨日の最も大きなイベントは、勤めている会社で経営会議なるものが開催されたことでした。

いま所属している部署では開発が遅れに遅れ、いつ部署が廃止になってもおかしくない状況です。
そのため、会議では雲居の空のかなたにいるえらい人たちに、部署継続の必要性を信じ込ませる必要があります。
えらい人はみなさん賢い人が多いので、とにかく理屈で攻める必要があります。
彼らは、当業者にとっては全然説得力のない話であっても、聞いていて快く、かつ「他社に勝つ」ためのちょっとした意外性のある計画が大好きなのです。
(計画ではありませんが、「ウロボロスの夢を見てベンゼン環を思いついた」系の話も大好きです。)
まるでキモオタが黒髪ロング清楚系にころっとだまされるのと同様に、えらい人はプロジェクトX的な美しい成功譚(予定)に引き寄せられ、あっけなく恋に落ちてロマンチックに夢見る少女になってしまうのです。

しかしながらこの世は無限に具体的であり、いろんな語りつくせない擾乱要素に満ち満ちています。
そのため、実際の技術開発には紆余曲折がつきもので、その道草の積み重ねこそが後から見れば前進であったりします。
黒髪ロング清楚系だと思ったら正体は超淫蕩なおっさんの怪人ラスプーチンだった、というのと同様、すげーみごとなストーリーだと思ったら実際は箸にも棒にもかからなかったりすることも、ごくごく普通にあります。
私自身はきれいなストーリーは成功の十分条件どころか、必要条件ですらないと思っています。

天動説、ルイセンコ主義、地向斜仮説、社会進化論、骨相学、フロギストン説、エーテル理論…どれもこれも、ストーリーを見るととても美しいです。
少なくとも、一通りの説明を聞いて矛盾点を指摘できるほどの、論理のほころびは存在しません。
逆からいえば、技術開発におけるストーリーもこの程度のものであり、堂々たる構造物だと思っていたのがちょっとした揺動で、三豊百貨店やタコマナローズ橋のようにあっけなく崩壊するのですよ。

ほんまか嘘かよくわからんお話を作るために、高給取りの優秀な上層部の人々が土日もなく莫大な手間をかけるこの無駄…これでもやっていける会社だから幸せと言うべきなのかもしれませんが。

(2014年9月12日)