SNS向きでない長文転記場所

5年くらい前に他で公開した文章をほとぼりが冷めたころに転載したものです

あなたの肖像―工藤哲巳回顧展

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国立国際美術館まで、「あなたの肖像―工藤哲巳回顧展」をみにいってきました。

http://www.nmao.go.jp/special/

まるで芋虫のような男性器が籠や飼育場の中で飼われている「インポ哲学」シリーズ、脳や眼球などの人体の一部が閉じ込められた「あなたの肖像」シリーズなど、とにかくグロテスクな作品群。
そしてその多くは、トランジスタなどの機械部品と一緒に養殖され、公害を思わせる毒々しい色に汚染されています。
個人的には、「グラディウス」とか「R-Type」などの往年の横STG類を思い出しました。

「白く塗った墓」なんて例えがありますが、人の心も生物の体も、表面上は美しく見えても、内部を切り開くと粘液にまみれたどろどろの実態をさらけだします。
技術工学の進んだ現代において、工藤哲巳は生体だけでなく機械類、無機物に対してもこのような有機物的醜さを感じ取っていたように見えます。
確かに、樹脂モールドや接着剤などは粘液に似た外観を呈しますが、そういったものが工藤哲巳の興味を引いていたわけではありません。

工藤哲巳の作品群の主要モチーフの1つに「放射能」があります。
放射能に見立てた毒々しい光を当てたかごの中で培養されるトランジスタと脳、鼻、男性器。
放射能に対して、汚物に感じるのと似たようなケガレ、不浄を感じ取り、これを作品に導入していたのかもしれません。
その意味では、排泄物、体液、毛髪、内臓、むき出しの脳などと同列に、放射能を扱うことができるのでしょう。
それではそもそも、放射能に対するこの不浄感はどこから来るものなのでしょうか?
塵肺や珪肺などのかたちで長期的に人体に害を及ぼすような粉塵については、危険性を認識する人は多くてもケガレの意識を持つ人は少ないように思います。
放射能は他の毒物、有害物質に比べて、人体の畸形化との連想性が高いのかもしれませんが…。

生体のグロテスクさと、無機物のグロテスクさ。
もやしのようなトランジスタが粘液や染みだらけのプリント基板から生えているさまを見た時の感情は、確かに生体を解剖したときに感じる怖気にも似ています。
昔読んだ「未来さん」という漫画では、無駄で複雑な回路を突き詰めれば脳になる、つまりは生体と無生物の違いはその複雑さの程度にすぎないとありましたが…。

なんかよくわからん感想ですが、実際にいってみて色々圧倒されました。
グロい展覧会でしたが、私以外のお客さんはうら若きおされな女の子ばっかり。
3年ほど前に見た、同じくグロテスクだったシュウゾウ・アヅチ・ガリバーの展覧会ではおっさんばっかりだったような気がするのですが。

画像は「未来さん」。
人間とは無駄で複雑な中継パイプです。

(2013年11月10日)